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Oct 2016
Column

六甲山の今

暮らしの中に取り入れることのできる山

神戸は山も生活圏だ。明治の中頃、神戸に居留した外国人A.H.グルームが六甲山の上に山荘を建てたのが最初と言われる。グルーム氏は、その後も人々が楽しめる山の開発・保護に貢献し、“身近な六甲山”の礎を築いた。(今でも山開きの功績を讃えて、毎年夏になると、山上ではグルーム祭という催しが開かれている)

また、明治の始めに同じく外国人によって山登りのレジャーが開発され、六甲山は日本における「近代登山」幕開けの地となった。日本最古のゴルフ場がつくられたのも六甲山である。 登山・ハイキング・ゴルフ・キャンプ・スキー・スケートといった山レジャーが生活の楽しみとして営まれるようになり、個人の別荘や会社の保養所がつくられるようになった。次第に日本人も山荘を建てて過ごしたり、山の上で遊んだりすることが増えていった。

しかし、90年代のバブル景気崩壊以後は企業の保養所等の遊休化が進んでいるのも事実。そうした中、最近では活用に向けた官民協働の取り組みも始まっている。 国立公園に指定されている貴重な自然環境と、都市からも海からも近い六甲山は、観光やレジャーを含めた多様な過ごし方ができるポテンシャルを持っている。

かつて外国人が生活やレジャーの場所として六甲山を好んだ理由は他にもある。多様で無数のトレイルルートがあること。地下水脈が豊富で湧水が充実していること。保養に良い泉質の有馬温泉が近いこと……。

そしてもちろん、日本3大夜景のひとつと語られる眺望の素晴らしさ!

ここからは、実際に六甲山の今を肌で体感しているご一家の生の声をご紹介。ブライアンさん一家は2004年、六甲山上の、もともと企業の保養所だった1軒家を購入した。

山の上という選択

— きっかけは何だったのですか?

ネイサン

長く大阪に住んでいました。それから兵庫県西宮市に引っ越したのですが、あるとき、新聞に六甲山の物件の広告が載っているのを見つけたのです。それで見に行こうと。いくつか物件も見ました。前向きだったのですが、お金の準備などもあり、最初に物件を見に行ってから1年くらい経って、今の家を購入しました。

— 何が決め手だったんですか?

ネイサン

買う前から修繕が大変なのも想像できました。でも、直した後の生活が見えた。それで頑張れると思ったのです。 何より、この景色の中で食事をするイメージが大きかった。

— 街中でないことに迷いはなかったのですか?

カヨ

ここを買うとき、周りの人の大多数からは反対されました。買うんだったら転売しやすい駅近のマンションの方が断然いいって。でも、私たちにはこちらの方が断然面白く思えたのです。

ネイサン

このような景色を持った家って、外国人の私の目からしたらとても価値があるんですよ。しかもこんなに街に近くて、充実した自然があって……、香港でも西海岸でもこんなに安く手に入らない。

柔軟な暮らしと仕事

— 家を直しながら住むのはネイサンさんにとって自然なことですか?

ネイサン

僕はコロラド州の生まれですが、アメリカでは割とDIYするのが普通です。子どもの頃から父親を手伝ってツリーハウスをつくったり。大人になって家を出るときには、僕も妹も父親から道具一式の入った工具箱を持たされましたよ。

カヨ

この家は、土台はコンクリートですが家屋部分が木造で良かったと思っています。木造だったら構造もわかりやすいし、自分たちである程度直せないこともないですから……。

ネイサン

デッキも自分たちでつくったんですよ。やっぱりこの景色だし、広いデッキがあったら人が集まったときにより一層楽しいですからね。

— 自営業とのことですが、今はどうやって仕事をしているんですか?

ネイサン

コンピューター関連の仕事をしているのですが、基本は自宅で作業しています。打ち合わせは大阪が多いのですが、ここからケーブルカーとバスと電車で、梅田まで1時間しないくらいで行けます。

カヨ

私も前は通勤していましたが、三宮に公共交通を使えばドア・ツー・ドアで1時間でした。車なら40分かからないです。

— ここで仕事をしていて不便を感じることは。

ネイサン

強いて言うならインターネットの光回線が来ていなくてADSLであることです。本当にすぐ近くまで来ているんですけどね(笑)。今は自分で働き方や場所を柔軟に選べる人が増えていて、そういう人たちにとっての何より大事なインフラはネット環境です。

カヨ

それ以外は、ネット通販や宅配便、牛乳屋さんも届けてくれますから、不便はことさら感じないです。足りないものは車で20~30分行けば買えますしね。

子どもたちも頼もしい

— 小学4年生と小学1年生の2人の息子さんがいらっしゃいますが、学校の環境はどうですか?

カヨ

歩いて10分のところに六甲山小学校があるのですが、全校生徒50人くらい。子ども同士、また子どもと先生が密に関わる、家族のような学校で良い印象です。先生の意識が高ければ、少人数であることはむしろ有利に働くと思っています。また、校外学習も多くて、釣りとか虫取りとかいろんなところに行ってます。

ネイサン

小さな学校なので、上の子が下の子の面倒を見るというのも当たり前。毎年春に全校キャンプがあるんですけど、上級生が低学年の子たちを助けてやりながら登る。子ども同士協力しあうという姿勢が自然と培われるのが良いですね。

カヨ

幼稚園は同じ敷地内にあるので連携が多く、運動会も音楽会もキャンプも合同です。だから幼稚園の子たちも小学校の子たちと活動を共にすることで自然と成長していく。小学生においては、小さな子を思いやる気持ちが育ちます。

— やはり山の上なので冬はスキー合宿があったりしますか?

カヨ

ええ。冬は体育でスキー教室があって、1〜4年生は六甲山の人工スキー場に。5、6年生になると兵庫県北部にあるスキー場で合宿。全員滑れるようになります。

天敵は雲?

— 現在の山の生活で、この点は嫌ということはありますか?

ふたりとも

梅雨! それさえなかったら最高です。

— 具体的にはどういうことですか。

ネイサン

北海道や東北と同じ寒冷地の気候なので夏は涼しくて過ごしやすく、たとえば街中が35度くらいだとして、ここだと26、7度くらいしかない。そこはとても気に入っています。ですが降雨量が年間通して多く、日本の平均が年間1700ミリ、神戸の街中が1300ミリなのに対して六甲山の山頂付近は1900ミリある。

カヨ

そして雨が降っていないときでも、雲が家に入ってくると大変なんです。

— 雲が入ってくる? 

カヨ

雲の高さに家があるわけですよ。窓を開けているとその雲が普通に入ってくる。雲というのはつまり水ですから、雲が入ってくると床に霧吹きで水を吹いたときのように床が濡れちゃうんです。 

ネイサン

だから、今日は晴れてるからいいだろうと窓を開けて出て、のんびり犬の散歩などしていても、雲が流れてくると「大変だ! 家まで急いで走れ〜!」って(笑)

— お家の中を拝見すると、本などが湿気でよれている感じもなさそうですが……。

カヨ

それは長年のノウハウ。うちは壁付けの除湿器をほぼ各部屋に付けてあります。除湿器の無い部屋には扇風機を回して空気を動かしています。除湿器と扇風機は合わせて19台もあるんですよ!梅雨の間はだから回りっぱなしです。

— てっきり暮らしの大変さは雪とおっしゃるのかと思いました。

ネイサン

雪は美しいし、子どもも大喜びだし、大好きです。薪ストーブもありますし。家のすぐ前のところもそり遊びができるようになります。

— 山の暮らしと言いながら、街中にも気軽に行けるところも良いですよね。

カヨ

実際子どもの習い事も街に行っていますし。子どもたちのお友達もよく遊びに来ます。 街の子たちも普段、山の自然の中で遊んでいないから楽しいですよね。今度ぜひ、お子さんも連れて、いかがですか?

取材・執筆=安田洋平 撮影=片岡杏子 収録=ブライアンさんのご自宅にて 2016年7月26日