Nomads

Apr 2016
Interview 01

地方であることがデメリットではない時代(1/2)

街の喧騒から離れられて、なおかつアクセスもいい

タトアーキテクツ 島田 陽、AKIND 岩野 翼+森江朝広、神戸R不動産 小泉寛明

三宮の山側に位置し、数十年前に建てられた外国人向けマンションが多く見られる北野町。近年は、そうした外国人仕様の広々とした空間を住居兼仕事場として活用する人や、シェアオフィスにして共同で使用する若い人たちが増えている。また新神戸駅や神戸空港へのアクセスも良いことから、出張の多いノマドワーカーにも勝手が良いのだ。

便利だけど、こもれるところがいい

— 設計事務所「タトアーキテクツ」を運営されている建築家・島田 陽さんは北野町に仕事場を構えて10年になられますが、今の環境で気に入っているのはどんなところですか?

島田

北野は山と海に挟まれた神戸の市街地の中でも北側の端なので、街の喧騒から離れることができてすごく静か。同時に10〜15分ほど歩けば中心地に出られて何でもあるという環境が魅力ですよね。

さらに神戸から他の都市に出かけるという場合にも、新幹線を使うなら15分で新神戸駅へ行くことができて、20分で三宮駅があり、空港までも40分程度と近くて、何ならフェリーまで使えてしまう。

実を言うと僕はほとんどアトリエにこもって仕事をしているのであまり出掛けないのですが(笑)、煮詰まると事務所のすぐ裏にある山の、人間が通った痕跡がまったくないような道に分け入って考え事をしながら散歩するのが好きなんです。

— 神戸は市街地が限られた面積の中にギュッと収まっているところがいいですよね。

島田

日本の都市はどちらかといえば、中心部から外へ向かって開発が際限なく広がっていく、スプロール現象(※1)になる傾向が強いのですが、神戸は北と南の両サイドを山と海に抑えられているせいで、必然的にそうならないのがいいんですよね。 ※ 1……都市が無秩序・無計画に拡大していく現象のこと。

— 北野は坂の上になるので眺めが良いですが、屋上なども普段使いますか?

島田

港で花火大会が行われるときは屋上からスタッフと見ますね。あと、神戸は朝焼けが綺麗に見えるんですよ。たまに早起きすると屋上でご飯を食べたりします。

— お客さんが打ち合わせに来る環境ということで言えば、ここに仕事場があることはどうなんですか。

島田

いろんな人が頻繁に打ち合わせに来る事務所だったらこのロケーションはどうかと思いますが、うちの場合、ここに来られるほとんどが工務店とお客さんで、なおかつ職業柄もっとも大事なのは住環境の良さを表現することなので、むしろこういうところに構えられて良かったなと思いますね。

キーマンの存在は大きい

— 岩野さん森江さんのおふたりは2014年に東京から神戸に移って、「AKIND」という、企業や行政などのブランディングを手掛ける会社を立ちあげられたわけですが、生まれも神戸なんですか?

岩野

僕は大阪の生まれですが、中学からは神戸で大学から東京に行きました。社会人になってからは東京の家具屋で働いて、その後、ブランディング&デザイン戦略という修士を取得するために2年半イギリスで暮らしました。森江とは帰国後、東京で就職した先のブランドコンサルティングの会社で出会ったのです。  

— 森江さんも関西出身?

森江

僕は京都出身です。20歳のときに日本の大学を休学してロンドンにわたり、その後バックパッカーとしてヨーロッパを旅行していました。それで帰国して、東京の広告制作会社に入った。その後、20代後半に転職をして、岩野と同じブランドコンサルティングの会社に入ったんです。6年勤めた後、ふたりで会社をつくる話を本格的にするようになって。「独立するなら東京じゃなくて関西でするのがいいんじゃないか」と。

— なぜ、「関西の方がいいんじゃないか」と思われたのですか。

岩野

僕がイギリスに留学していたとき、ロンドンではなく、少し離れたノリッジという地方都市に居たのですが、そのときの体験が自分の中では大きかったのです。経済規模としてもほどほどで、自然環境も優れている。そうした環境のもと、地域に根づきながらバランスの良い生き方をしている人たちの豊かさが、東京から引っ越してきた僕にはとても魅力的に映りました。

また、イギリスなら首都のロンドンよりエディンバラ、オランダの首都アムステルダムに対してロッテルダム、というようにヨーロッパでは地方都市にも質の良いクリエイティブ系の会社やフリーランサーがいるのを知るようになって、そのこと自体、その国の成熟ぶりがよく表れていると感じました。

帰国して東京のブランディングの会社に入ってからも、日本は東京に集中し過ぎている。もうそろそろすべてが東京じゃなくてもいいんじゃないか?と疑問を感じ始めたのです。

— なぜ大阪や京都でなく神戸で起業しようと? 

森江

京都など他の都市も検討していました。市場のことや交通の利便性などももちろん意識しましたが、最終的に決め手になったのは「人」でした。神戸という都市がこれからどう面白くなっていくか、そこでの新しい働き方や暮らし方について紹介するコラムをいつも東京から見ていて、その発信者の人と会ってみたいと思っていました。実際にアポを取って会って、考え方に共感するところが大きく、それで神戸にしよう、と心を決めました。

地方に移るときの直接的なきっかけになったり、移った後で仕事やいろんなコミュニティーとうまくつながれるかどうかは、その地域のキーマン的な存在とつながれることが大きいのではないかと感じますね。

情報は「受け身」ではなく「取りに行く」

— 実際に東京から神戸に拠点を移して、仕事の仕方は変わりました?

岩野

ブランディングの仕事という点では変わりませんが、東京にいたときはどちらかと言えば短期決戦で通用するソリューションをつくるということが当たり前だった。でもこちらでは、もっとじっくりと腰を据えて長期的に取り組むという仕事が多い気がします。ある意味それは東京のように大きな予算が組めないからということもあるでしょうが、「予算が少ない中でも、将来につなげるために今一番何に注力すべきか」ということを一緒になってやれている手応えはあります。

また、東京は情報が多い分、あれは既に行われている、これとこれとの組み合わせならきっとまだ誰もやっていないはず、といったところで違いを生み出そうとしていた気がしますけど、神戸は「根本から見直してみよう」というところから発想することが少なくない。たぶん神戸で生活していると情報量が少ない分、そう思考できる余裕があるのかもしれません。

東京にいると新店ができたからすぐ見に行こうとか、ひっきりなしに新しい情報を受け取るけど、こっちだとそういうことが少ない分、じゃあベルリンなりヘルシンキなり、海外に行って見てこようか、というように自分から情報を取りに行く形に変わりますね。

島田

よくわかります。振り返ってみて自分が幸運だったと思うのは消費されない環境にあったことです。若くして独立したのですが、もし最初から東京でやっていたらメディアがもっと身近にあって今よりも取り上げてもらいやすかったかもしれない。そしてそういう環境が昔は羨ましいなと思わなくもなかった。ただ、結果的には若くて自分がまだ何者かもわからない状態の時からメディアに露出されるより、ある程度成熟してきたタイミングで発見してもらえた方がある意味では良いと思うんです。

一長一短あるでしょうが、情報から遠いことは時には悪くないんじゃないかと思います。