Medical Tech

Jun 2016
Interview 01

医の領域解放(1/2)

医療を外の世界と横断させるのが私の役割

神戸大学大学院 医学研究科 神戸大学医学部附属病院 内科学講座消化器内科学分野 特務准教授 杉本真樹

2014年、Apple社によるMac30周年記念サイト「Mac30」で、世界を変え続けるイノベーター30名として選出された医師・杉本真樹さんは神戸大学大学院を拠点に活動をしている。キーワードは「可視化」「可触化」。CT画像をもとに3次元映像化した患者の腹腔内映像を患者の腹部にプロジェクションマッピングして腹腔鏡手術を行うシステムを開発。また、内視鏡カメラの先端を磁場センサーにより、動きと腹腔内のCT画像を3Dにして完全連動させ重畳させモニタリングしながら手術ができるようにもした。さらには患者の臓器の3Dデータを3Dプリンターで造形し、水を含んだ特殊素材でつくることで触感まで実物そっくりの臓器を再現。より本物に近いかたちでの臓器を使って手術のトレーニングができるようにした。医療というサイエンスの現場こそ最先端のITとの連携の場と信じ、医療の領域を拡げようとしている。
1998年よりポートアイランドを拠点として医療産業都市としての整備を進めてきた神戸にあって、メディカルテックの分野はこれから今後どう展開していくのだろうか。

医療の領域をITで拡げていく

— 杉本さんは2009年から神戸大学大学院に赴任されましたが、その前はアメリカにいらした。なぜ神戸に来ようと思われたのですか。

杉本

私は外科医ですが、今から8年前、2008年に(公財)先端医療振興財団(※1)を代表とする研究プロジェクトが、国の先端医療開発特区(※2)として認定されて、その施策のひとつとして、世界で戦える国産の医療機器を神戸で開発することを積極的に行うことを掲げたのです。当時私はシリコンバレーで同様の研究を行っていたので、声を掛けていただき神戸に移ることを決めました。それが直接のきっかけですね。

(※1)神戸市の外郭団体(平成12年3月設立)。
(※2)革新的技術の開発を阻害している要因を克服するため研究資金の特例や規制を担当する部局との並行協議などを試行的に行う「革新的技術特区(スーパー特区)」 。

— 「イノベーション創出リーダー養成」にも力を入れていらっしゃると聞きました。

杉本

医療機器開発に積極的に取り組むことで医療の領域を変えていこうという医師はまだ多くはなく、私が率先してそのロールモデルになれればと思っています。それには人材育成が重要だとわかってきた。特に大学院生とか、ポストドクターフェロー(※3)、そうした若い年代の中からイノベーションを起こせるような人材を育てていかないといけない。

(※3)ポストドクターフェロー…博士号を修得して間もない研究員のこと。

最近では、たとえば医師でありながら医療機器メーカーの開発や管理部門に派遣され、プロジェクトを推進する能力を学んだり、あるいは逆に、企業人が大学や大学院に所属し、医療の現状について理解を深めることも積極的に行っています。

— 特務准教授という肩書でいらっしゃいますが、「特務」とは。

杉本

私は医師ですが臨床以外の領域を横断的に活性化させるということが使命であり、病院と外の世界の壁を取り払うことによって、医療の領域を解放するのが重要だと思っています。

— 2014年には薬事法が改正されて薬機法(※4)と呼ばれるようになりましたが、医療テクノロジーの動向とはどのように関係していますか。  (※4)医療品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

杉本

以前は、医療関連のデジタルソフトウェアは医療機器という扱いでは販売することができなかった。法律が改正され可能になりました。今は、そうした開発がとても加速度的に進んでいます。また、医療従事者以外の人たちのアイデアも反映させやすくなってきているので、さらに活発化させていきたいです。

3Dプリンティングで作られる“臓器”

— ところで、こちらが杉本さんが開発された、3Dプリンターによる生体質感造形なんですね。

杉本

こちらは実物大の男性の肝臓です。3Dプリンターで外部を造形しますが、内部は特許素材などを混ぜてつくっています。湿感も実物と同様の水分で再現しています。また電気メスで切断すると本物の臓器のように、血液に似た赤い液体が出る。内部構造も完全に再現しているので、血管も脈管も入っています。持ってみますか?

— おお……、肝臓の触感ってこんな感じなんですね。湿っていて、しかも意外にずっしり重い…。

杉本

人間は体重の6割が水分と言われ、その1/4程が肝臓の血液量で、それも再現してあります。ただ臓器だけだと手術のプロセスを再現するには不十分で、腹腔壁にあたる体幹の模型もデザインしました。これも実際の人間のCTのデータから作っています。この内腔に先ほどの臓器を入れて蓋をすると、人体内に近い状態で、腹腔鏡手術のシミュレーションができるのです。実際に内視鏡を挿入して、モニターを見ながら手術のトレーニングをすることができます。 こちらは機器メーカーと連携し事業化して、現在では全国展開もしているんですよ。

ポートアイランドにおける医療系企業の集積

— どういう企業と組んでいるのですか?

杉本

3Dプリンターを販売していた、とある機器メーカーと神戸大学で共同研究契約をし、特許も大学とメーカーで共同取得しています。販売は複数の企業が担当しています。

— そうしたメーカーが神戸の企業であったら医療産業都市としてはより好ましいですね。

杉本

そうですね。実際に下請けの一部はポートアイランドに事業拠点がある企業もあります。もともと金属加工を行っていた会社などです。ですが、我々が開発支援をして、現在では医療関連製品を開発する部門を持っています。

ポートアイランドには、神戸国際ビジネスセンター(KIBC)のように、ベンチャーを含めた医療系の企業がたくさん入っている賃貸オフィスも多くあります。また、我々が立ち上げた、企業と医療機関・学術研究機関の出会いの場である「一般社団法人医療イノベーション神戸連携システム(MIKCS)」もあり、産学医工連携や医療機器開発支援が進んでいます。現在の加盟企業は、約50社に上っています。

参考URL:
神戸大学 大学院医学研究科・医学部 ホームページ

取材日=2015年12月7日 取材場所=神戸大学大学院 医学研究科 研究室  取材・執筆=安田洋平 写真=藤田 育(メインカットのみ) 画像提供:神戸大学大学院医学研究科 杉本真樹特務准教授(メインカット以外)