Farmers

May 2018
Column

神戸で始まっている「CSA」の実験的取り組み

地域で支え合う農業の新しいかたち

アメリカで広がる都市型農業のスタイル

食の生産地と街とが近い神戸だからこその可能性がそこにあるかもしれない。

近年、アメリカのオレゴン州ポートランドは「都市型農業」の先進地として知られている。都市の近郊に農園にあり、消費地と近い場所で作物が生産されていることで、作り手と買い手がダイレクトにつながっている。その象徴とも言えるのがCSA(Community Supported Agriculture)。有機農家を中心に、自分たちの理念にのっとった作り方で健康的な野菜を生産するにあたって、あらかじめ賛同してくれる消費者からお金を集め、そのお金を元手に生産する仕組みだ。出資者のもとにはその時期その季節に出来た野菜が定期的に届けられる。

2016、2017年と2年にわたって、この仕組みを採り入れているポートランドの農家たちが神戸を訪れた。その中のひとりのコメント:「私の農園の場合、全体の売上構成比のうち大きく分けると1/3がCSA、1/3 がファーマーズマーケットでの売上、残りの1/3がレストランなどに直接卸す分」。すなわちCSAが農家の生計を支える基盤になっている。違う表現で言えば、ポートランドでは生活者はたいてい誰でもCSAという名前を知っているし、利用率も3〜4人にひとりほどになっている。年に1回もしくは半年に1回くらいの頻度でCSAのフェアが大々的に行われ、そこにはCSAを実施している農家たちが出展。消費者たちはそこへ出かけて、今年はどこの農家のCSAをお願いしようか……と見て回るという。好みや農家の理念を見て選べるまでに浸透している。

神戸市西区で始まったCSAのチャレンジ

そして神戸。同じように都市型農業に向いた環境条件が備わっている土地柄ということもあって、1年半前から西区の農家の有志によるCSAの取り組みが始まっている。

神戸市西区で、CSAを開始させた「bio creators(ビオ・クリエイターズ)」。その窓口を務めるナチュラリズムファーム 大皿一寿さん・純子さんにインタビューさせてもらった。

――直接的なきっかけは何だったのですか。

私たちの場合、有機農家としてスタートしたのが8年前ですが、当初から先輩農家とも違う売り方や売り先を開拓しないといけないと思っていましたし、農業に対する自分の考え方に賛同してくれる人たちを募ってその方たちに売ったらどうだろうという想像はずっとしていました。ただ直接のきっかけはEAT LOCAL KOBEのファーマーズマーケットに参加するようになったことです。消費者と直接につながることができ、売れるようになったこと。また海外でCSAという取り組みがあることもファーマーズマーケットの仲間からの情報で知りました。それが自分がイメージしていたものと大変近かった。

――農家にとってCSAをするメリットは例えばどんなところにありますか?

ひとつ大切な点としては、野菜をつくるにあたって前金制で消費者の方から代金を預かっておける点です。何か月もかけて作物をつくりマーケットに出して、その翌月翌々月にようやく現金化……という、これまでの農家の商習慣からすれば画期的なことです。またもちろん、そうしてサポートしてくれている大事な会員だからこそ、野菜をきちんと届けないといけないという、作り手としての強い責任感にもつながります。

――現在の会員数と、今後目標としている会員数について教えてください。

現時点では24の世帯に申し込んでいただいています。これまではファーマーズマーケットでお知らせした程度で、積極的には会員募集をしていませんでした。私たちにとっても初めての取り組みですべてが手探りですし、一度に会員が増えたところで体制がそれに追いつかずパニックになる可能性もあったからです。実際、今くらいの会員数になって、この先は管理のツールをしっかり整備しないとやっていけないと感じています。逆に言えばそれくらいまで運営の手応えが持ててきたとも言えます。100世帯を目標にしていますが、まず50軒、現実的にステップアップしていきたいです。

「チーム方式」を導入

――「ビオ・クリエイターズ」というのはチーム名で、同じ西区の農家数軒でグループをつくってCSAを行っているそうですね。

はい、私のところを含め6軒の有機農家(naturalism farm、谷下農園、かなん農園、なちゅらすふぁーむ、fresco fresco、あぐりしあ)でチームをつくっています。理由のひとつは、先程の会員数のこととも関係しますが、私たちは1軒の農家では生産能力が足りないからです。何軒かが協力することで、供給的にも安定しますし、また品目的に充実させることもできます。
もうひとつ大きな理由として新規就農者のサポートにもつなげられるのではという考えがあります。現在のメンバー構成は私のところともう1軒が数年の経験を持つ農家で、それ以外の4軒は良い野菜はつくっていますがキャリアとしては就農してまだ1年を過ぎたくらいの農家です。自分も就農したばかりのときは売り先に苦労したのを覚えていますし、ひとりで行っていたら生産と営業、配達の兼務は大変です。CSAという仕組みがあることによって彼らはお客さんを獲得でき、また決済も早いのでキャッシュフロー的にも助かる。もちろん彼ら自身の独自の営業も大切ですが、まずはつくることに集中させてあげられると良い。

根本的に、このCSAという仕組みの基本には「応援/支え合い」の意識があると思っています。会員の方々もただ健康的な野菜が欲しいということだけでなく、文字通り自分自身が地域の農業のサポーターになるという気持ちが大きい。であれば、これからの可能性を持った若い農家を育てていくことは、彼らも前向きです。

昨年ポートランドの農家が神戸に来て話をしたときには、私たちのようにチーム形式でCSAをしている事例はアメリカでは聞いたことがないと言っていました。日本の小規模農家においては有効な手法ではないかと思いますし、そこで新規就農者を組み合わせることは鍵になるのではという気がしています。

現在の会員数や継続率

――消費者はCSAに申し込むと1シーズン制(10週)で数種類の野菜が入ったセットが毎週もしくは隔週で供給してもらえるということですが、実際にどんな野菜が入ってくるのですか?

ひとつ言えるのは届くのが毎回季節の野菜になってしまうことです。スーパーなどではニンジンは一年中並んでいますが、私たちのところではニンジンは採れる時期でないとパックに入ることはありません。でも言い換えれば季節の野菜が何かを知ってもらえるし、本来旬とはそういうものです。

また中には、それぞれの農家でつくっているちょっと珍しい野菜もありますが、レシピを必ず同封するようにしており、新しい料理・調理にチャレンジすること自体を楽しみにしてもらえると嬉しいです。

有機農家は、他との差別化から少し変わった野菜をつくる傾向になりがちですが、CSAというプラットフォームがあることでスタンダードな野菜に取り組む意識も強くなっています。定期的にCSAのメンバーで共同の作付け会議をしているんです。もっとじゃがいもや玉ねぎの作付けを増やした方がいいんじゃないか。同じじゃがいもでも、協力することで、いろんなバリエーションが出せるんじゃないか。そんな風に品目も調整しながら行っています。

――CSAは消費者からしたら割高、それとも割安なのでしょうか?

1シーズン前払いになりますが、一回のパックで10品目入っていて、単価で換算するとスーパーで買うのとそんなに違わないと思います。野菜は天候条件などで価格が高騰することがあるものですが、CSAだとそういう点では影響がなく一定なので、会員の方たちから感謝されました(笑) 

――現時点でCSAに申し込んでいるのはどんな人が多いですか。また契約者の離脱率などはどうですか?

現在はほとんどの申込が女性です。世帯で言えば小さいお子さんがいるファミリー層も、ご夫婦だけの世帯も、独身の方も、いろいろです。現状の会員はほとんどが継続で、離脱率は非常に低いですね。

従来の産直通販とどこが違う?

――CSAはこれまでの産直野菜通販とどういうところが違うのでしょうか。

一番の違いは農家と消費者が互いに主体的に、直接つながっているということだと思います。私たちは事前にお金をもらうことで安心して野菜をつくることができ、消費者の方たちは顔の見える生産者から一定的に野菜を受け取れる。私たちにはいろいろな売先がありもちろんどのお客様も大事ですが、CSAで直接つながって支えてくださっている方たちには特別な思いがあります。近い距離感にいる存在であり、何をおいても大事にしなくてはいけない人たちです。

CSAでは野菜をお渡しする方法としては直接農家に取りに来ていただく方法と、私たちが信頼する街中のお店にピックアップステーションになってもらい、そこで受け取ってもらう方法の2つがあります。ただ、どちらにせよ渡しておしまい、ではなく必ず直接コミュニケーションをすることを大切にしています。

今度CSAの会員向けに、私たちのメンバーの農園に来てもらう「ファームツアー」を開催する予定です。会員の方も畑を見て直接話をすることでより共感を持ってもらえるのではないかと思いますし、会員さん同士も仲良くなれる。一方、CSAのメンバーになっている農家の側も、「このあいだの、美味しかったよ」と直接聞くとモチベーションになりますし、自分たちのお客さんがどういう人達なのかということもより体感できます。

―—CSAの取り組みは今後社会的にどういう風に育っていったら良いと思いますか。

まず直近的なことで言えば、全体の売上の構成比の中でまだそれほど高いわけではありませんが、CSAの活動が認知されていき、その比率が上がっていけばいくほど、農家にとってはリスクヘッジができるし、経営としても安定につなげられる。そういう可能性を持ったものだと思っています。

もっと広い意味で言えば、農家と消費者が文字通りサポートしあって自分たちの食を将来にわたってちゃんと確保していくための有効な手法、セーフティーネットになりうるのではないでしょうか。その意味で“お互い様”で広く手を結ぶことができればと考えている次第です。

取材日=2018年3月12日 取材・執筆=安田洋平 写真提供=EAT LOCAL KOBE