Farmers

May 2018
Column

「神戸で農家になる」

KOBE live+work マイクロビジネススクール 第4回

神戸で農業を選択する理由

神戸で、農業を選択する良さって何なのか。
神戸の街の特徴を生かした起業の可能性を探ることを目的としたKOBE live+work マイクロビジネススクール。第4回のテーマは「神戸で農家になる」。

今回の講師のひとり、会社員から転身して農家になった森本聖子さんは現在神戸市北区淡河町を拠点に営農している。少量多品目の野菜を栽培し、できたものの8割をレストランに卸す。その他、三宮・東遊園地で毎週開催しているEAT LOCAL KOBEファーマーズマーケットで直接、街の消費者に販売する。森本さんの生産スタイルや販路選択はある意味、街と農地が近い神戸ならではだと言える。今回のスクールでは、実際にこれから就農を考えている人にとって実践的な情報をたくさん共有してもらうと共に、「神戸で農業をすることのメリット」についても語ってくれた。

・消費地が近く、直接販売のハードルが低い
・小規模経営だが、こだわりの強い飲食店が多い。一度の注文量はそれほど多くないかもしれないけれど、その代わりに、こだわりのある農家の野菜を使いたいと言ってくれ、小規模農家が対応しやすい
・街の人たちとの接点が持ちやすい

また、自分がなぜ農家という仕事を選んだのか、その理由についても話していただいた。

「私の場合、とにかく野菜をつくることが面白くて、これを仕事にできたらいいなと思ったことが一番の理由。以前は旅行会社勤務だったのですが、どこかかたちのないものを売っている、そんな気分でした。農業は、自分で種を蒔いたものが育って収穫できて、お金に変えられる。シンプルに、ものをつくって売ることの喜びが好き」
「どの野菜を、どういう栽培方法で、どれぐらい量でつくって、いくらで販売するか。すべて自分で決められる」
「つくっても売れなかったらどうしようと心配される声も聞きます。でも野菜に関してはちゃんとつくれば売り先はいくらでもあると思っています。どちらかと言えば、市場からの要望があるのにまだまだそこに供給しきれていないという方が現実と思っています」 

これからの就農のあり方についてはこんなコメントを。

「農業だけで食べていく。もちろんそれはそれでいいのですが、『農業+α』という、農業と他の仕事を兼ね合わせながら行なう選択をしても良いと思います。実際、北区で農家をしていて、周囲を見ても専業農家は本当に少ない。農家と言いながら、家族のうちの誰かは勤めに出ている。生業は別にあるが先祖から受け継いだ田んぼがあるからお米だけは何とかつくっている。

頭から『半農半Xでやりたいんです』と言われて抵抗感のある農家さんはまだまだ多いとは思います。またいずれにしても、農村地域の一員となったら、草刈りなど地域コミュニティーの行事に積極的に参加することは大事です。ただ、『主婦だけどパートで農業がしたい』とか『農業をしながらカフェがしたい』とか『現在の仕事は続けながら、農家としての顔も持ちたい』など、多様な就農の姿がもっと増えていいのではないでしょうか。農業だけでないということによって、リスクヘッジになる場合だってあるでしょうし。何より神戸と言う場所は、そういう農家のスタイルが向いているんじゃないかと思います」

売り方を切り拓く

今回のスクールでは、特別に講師がもうひとり。神戸市西区の農家で、有機農法で野菜をつくっているナチュラリズムファームの大皿一寿さん。ケール、ベビーリーフ、レタス、ミニトマトなど約40種類の野菜を栽培・販売している。大皿さんは農家を株式会社で行っている。

取引先の比率としては、レストランや個人のお客さんへ直接届ける分が一番多い。その他はJA やコープ自然派(※)へ出荷したり。さらには今一番、販売の手法として力を入れて行っているのが1年前から始めたCSAの取り組みだ。コミュニティー・サポーテッド・アグリカルチャー、日本的に言うと「産消提携」。消費者が、農家に前金で渡しておき、農家はそれを元に生産をし、できた分から消費者に届ける。

※コープ自然派……関西・四国在住者が利用可能な生協・定期宅配サービス。「食と農と環境は一体である」という考えに基づき、国産オーガニックを推進。 取扱品は、食の安心・安全に対する厳しい基準のもとで選ばれている。

CSAの会員となると1シーズンの間(10週)、毎週、野菜が届く。そのとき採れた野菜なので何が入ってくるかを選ぶことはできない。けれども消費者は農家に応援や共感の気持ちがあり、その還元として野菜が送られてくる。現在のところ、ほぼすべての会員が継続で行ってくれている。一度つながりができると強固な絆で消費者とつながれるところがCSAの長所と実感している。

また前金制であることは画期的だという。通常、種もしくは苗から育てて収穫できるようになるまでに3〜4か月。それでスーパーなどに納めて末締め精算。入金は翌月、あるいは翌々月。つまり現金化ができるまで半年近く待たなければならない。大皿さんの場合は、会社で人も雇用しているのでその間、毎月の人件費などもかかってくる。途中でキャッシュが回らなくなって借り入れして利子が発生して……ということも現実的にあり得る。ところがCSAでは事前決済によって得たお金で作付けから人件費などの経費に宛てることができ、全部がスムーズに回っていくようになる。

「CSAのようなアプローチが可能になったのには、ファーマーズマーケットの存在が大きいです。ファーマーズマーケットが始まってから、街の消費者と農家がダイレクトにつながれるようになって、いろんなことが回り出した。飲食店とも、個人のお客さんとも、直接の付き合いが増えましたし、CSAもここで告知したことで会員を一度に集めることができました」

ファーマーズマーケットの一番の良いところは、「お客さんとゆっくり話せるところ」。自分たちがどんな思いどんな作り方で行っているかをきちんと伝えた上でファンになってもらうことができる。街と農地の行き来の中で農家の経営を成り立たせることができているのは、大皿さんも同じだ。

違った視点から農業にアプローチ

参加者も、それぞれに特徴を持った方々だった。まず実家が北区大沢町の兼業農家で、現状としては田畑のほとんどが遊んでいる状態だが、一念発起して自分が農業を本格的にやってみようと思っている男性。ただし、販路開拓や出荷の仕方、農業収益を得ていくノウハウなどはないので、具体的な知識を得て、実行に移したいと思っている。

アパレルに長年勤めていたが結婚を機に退職した女性。結婚相手は実家が北区有野町の専業農家で、自分が継ぐと決意して現在修業中。夫が農業を学ぶかたわら、自分は飲食店で経験を積み、いずれ夫がつくった農作物を使ったオリジナルメニューを販売するショップができればと思っている。有野町は二郎イチゴの産地であり、イチゴを使ったスイーツなども考え中。

灘区のマンションに家族で住んでいる自営業の男性。現在の仕事は維持しつつ減らし、空いた時間で農業がしたい。農村への移住というより、街中に家を持ったまま、デュアルライフ的に農業を行えないかと模索中。

大学を休学して、農家の手伝いをしてもう1年以上になる大学生。今年の9月に卒業予定だが、その後就農するか、就職するか迷っている真っ最中。

参加者たちはこれまでのマイクロビジネススクールと同様に、座学中心の1日目に続いて、2日目には各自ビジネスプランを朝から練り、午後から発表を行った。以下、発表された提案のうちの一部と、それに対する講師コメントを抜粋で紹介する。

(提案)「実家の休耕田を使って、ハーブに特化した専業農家を目指す」
(コメント)「既に農地を持っているなら、とにかく植えてみて、そうすればもう一段階先が見えてくる。ハーブはどこまでを含めるのか。たとえば和のハーブは? 山椒などもいいし、どくだみ、ヨモギ……範囲の考え方によって可能性も広がる。また、農村なら珍しくない路ばたの野草が、街の人にとっては、魅力的であったりする。街中の『野草の会』イベントが毎回とても賑わっているように。実は求められているのに、供給者がそれほど多くない分野はたくさんあって、そう考えれば考え方次第で可能性は膨らむ」

(提案)「農地付きのシェアハウスかシェアオフィスを運営し、住まいは街中に持ったまま農的な暮らしをしたい人のための、デュアルライフ・サポート拠点をつくる。朝来て、子どもを自由に遊ばせながら、3時間くらいそこで仕事して、その後野菜を世話したり収穫したりして、子どもと一緒に街に帰る。家から30分から1時間くらいで行ける距離感ということで北区か西区。都市生活者が農業に関わるハードルを低くするためのサービスの開発」

(コメント)「私が北区で就農した当初、畑を借りにくかったけれど、少しずつ農村に根付いてきたことによって、周りの農家さんから『うちの土地も使わないか』と相談されるケースが増えている。ただ、私自身は借りたくても余裕がない。発想と余裕がある方がそうしたところに参入してもらえるならありがたい。また、100%農業をしている人はある意味不器用になって、柔軟な発想ができないから、違う視点を与えてもらえるとヒントにもなる。ただし農村の側からすると、ただセカンドハウスを作りたいという表現だと抵抗感がある。『農家の新しいカタチ』として入ってきてもらえれば」

多様な農家の姿を楽しみに

こうして2日間のコースは終了。講師を終えた森本さんに感想を聞いた。

「私自身にとっても刺激がすごくあった2日間でした。今日参加された方々は、農業学校の就農コースに入って農家を目指してくる人の中になかなかいないような視点がありました。私の身近な街の人たちからも、農業に興味があると言われることが増えていますが、どちらかというとそれは、“生き方として”農業を採り入れたいということでしょう。また以前は、中途半端な気持ちで農業に入ってきてもらっては困るという空気が農家の間で強かった気がしますが、段々とそのハードルも下がってきていると感じます。ぜひいろんな就農のあり方で農業に入ってきてくれたら嬉しいです」

取材・執筆=安田洋平 撮影=則直建都 取材日=2018年2月10日・11日