Farmers

Nov 2017
Column

神戸にローカルワイナリーが増えるためには

地元で収穫されたぶどうからつくられるワインが供される豊かさへ

地元のぶどうでワインをつくる

先日開催されたKOBE live+workマイクロビジネススクール「アーバンワイナリーをはじめよう」受講者の横顔を知るため、中岡 元(はじめ)さんのもとを訪れることにした。中岡さんは神戸近郊で生食用・ワイン用のぶどうを栽培する農家。現在は収穫したぶどうの一部を外部の醸造所に委託してワインにしてもらっているが、いずれは自分で醸造所を持てたら、との思いからスクールに参加した。   

もともと神戸は西区を筆頭に、梨・いちご・桃、そしてぶどうと、果物の生産が盛んだ。兵庫県全体としても東西に中国山地が貫なっているため気候や地形が多様で、多彩な品目の野菜や果物がつくれる環境となっている。

中岡さんは、マスカット・ベーリーA、藤稔(ふじみのり)、ピオーネなど数種類のぶどうを育てている。
「マスカット・ベーリーAは生食もありますが、日本ではもう何十年も前から赤ワインの定番としても知られている品種。ピオーネや藤稔は昔から神戸近郊で生食用としてつくられてきましたがワインとしても親しんでもらえる可能性もあるのではないかと思っています。ワイン、ジャム、ジュースなど、この土地でできるぶどうの自然な味をいろいろなかたちで知ってもらえるようになると嬉しい」

ワイナリー設立の壁

「先日参加させてもらったマイクロビジネススクールを通じて、ワイナリー設立に向けて何が必要でどういうプロセスで行っていけばいいのかかなり具体的に教わることができた。徐々にですが準備を進めていこうと考えているところです」

醸造所を開くうえでのハードルのひとつは、収量の確保。ワインを醸造できる資格である果実酒製造免許では、年間6キロリットル以上のワイン生産が義務付けられている。6キロリットルとは、750mlボトル8000本分に相当する。また750mlのワインをつくるためにおおよそ1kgのぶどうが要ると言われている。つまり、8000kgのぶどうを生産できなければいけない。一般的に一反(たん)辺り500〜600kg程度のぶどうが収穫できると言われているので、義務付けられた収量を確保するには最低で15〜16反の畑が必要となる。畑を段々に増やす予定で、神戸市の西区あたりで畑を持つことも検討しているという。

「神戸三宮で開催されているEAT LOCAL KOBEファーマーズマーケットで定期的に出店していますが、ぜひ地元で収穫されたぶどうからできたワインを味わっていただきたい。持続可能な農業・暮らし方・生き方が自然と広がっていくと良いと思っています」

自分で育てたぶどうがワインとなって醸造所から届いたときはやはり感動するものかどうか尋ねると、
「醸造していただいている方々に感謝していますし、尊敬に近い気持ちを抱いています。でも、もし自分で全部の工程を行ってワインを提供できるようになったとしたら、より感動は大きくなるのではないかという気がしています」という答えが返ってきた。

ぶどう農家、そしてワイン醸造所が自分たちの住む生活地の近くにあったら―。ときに収穫を手伝い、その後、庇のようになったぶどうの木のたもとで一休みしながらその農園でできたワインを開けて一緒に飲む。そんな心地よい妄想に駆られた。

神戸におけるワイナリー設立の可能性

ちなみに、神戸市内にあるワイナリーは現状1軒。神戸市西区押部谷にある神戸ワイナリーである。押部谷は西日本でも有数の果樹団地があるエリアだ。兵庫県下だとワイナリーは丹波青垣にもあるが、それにしても2軒のみ。地ビールの醸造所は近年全国各地で活発に増えており兵庫県下でも複数あるが、ワイナリーはまだごく少ない。

もっとも、国内における酒類消費全体の中でワインの消費量は増えており、たとえば国税庁発表の1998年と2014年の酒類消費のデータを比較した表を見ると日本酒はほぼ半減、一方ワインは増えている。また国内のワイナリーの数もここ数年毎年増えている。また、日本ワイン(※)の人気が徐々に高まっているというニュースをこのところよく耳にする。

※海外産のぶどうを使っていても日本国内で製造されれば「国産ワイン」と名乗って良いが、これと区別して、国産のぶどうのみを原料として使い日本国内で製造されたワインは「日本ワイン」と呼ぶように変わってきている。  

神戸ワイナリーは1983年の設立。もともと兵庫は人工の溜池が日本一多い県として知られているが、30年前、新たなダムが国の事業でつくられることになった際、その水を使って新たな農業を盛んにしようと、ワイン用ぶどうの栽培に力が注がれることになった。その中心拠点となる場所として、神戸ワイナリーがつくられることになったのである。

今でも神戸ワインの銘柄で年間30万本がつくられており、生産量は年間300t程度。売りは、創業当時から変わらず、神戸市内産のぶどう100%でつくったワインであるということだ。

「もともと神戸市内でぶどうはよくつくられていますが、ただ市内でつくられているものは基本的に日本の品種です。神戸ワイナリーは、神戸市産ぶどう100%使用であることに加えて、カベルネソーヴィニヨン、シャルドネ、メルローなど、欧州系ぶどう100%という点も特徴としてきました。」(神戸ワイナリー・施設担当者)

全国的に見ると北海道、山形県、山梨県、長野県などがワイナリーの生産ではよく知られており、西日本はまだまだ、ワイナリーの数も少ない。だが一方で、「アーバンワイナリーをつくろう」ビジネススクールの講師を務めたフジマル醸造所・藤丸さんが大阪を拠点につくったワイナリーで注目を集めたり、神戸と同様に乾燥した晴天が続き、降雨量が少ない岡山がワイン生産地として光が当たったりと、状況は変わりつつある。 神戸ももともと果物生産が活発で、なおかつ農村と消費地である都市部が近いという特徴があるため、ローカルのワイン醸造家が育っていくポテンシャルは十分あるのではないだろうか。神戸ワイナリーに加えて、食事のお供になるワインを製造できる地元のワイナリーが、小規模な醸造所も含めて増えていけば、生活者にとって神戸はさらに魅力的な場所になるだろう。