Farmers

Sep 2017
Column

「アーバンワイナリーをはじめよう」

KOBE live+work マイクロビジネススクール 第1回

都市型ワイナリーに適した神戸の環境

この度、移住にともなう仕事問題の解決策のひとつとして、「神戸という街の特徴を生かしたマイクロビジネスの起業」をテーマにしたスクールがKOBE live+workで始まった。

その第1回として7/22、23に行われた講座が「アーバンワイナリーをはじめよう」。神戸は瀬戸内海式気候で比較的雨が少なく水はけの良い土地が多い。ブドウ栽培に適した条件を持っている。また農地と都市の距離が近く、都市型のワイナリーをつくるのにも好都合な環境であるが、神戸市内におけるそうした醸造所はまだないのが現状。というわけで、神戸におけるアーバンワイナリーの可能性が現実になればとこの回が設けられた。

講師には、大阪と東京の2拠点で「フジマル醸造所」を運営する株式会社パピーユ代表取締役の藤丸智史さんをお迎えした。藤丸さんは2013年、当時としては世界でも数少なかった都市型のワイナリーを大阪・島之内に設立、ワインショップ及び食堂を併設したワイナリーという点でも注目を集めた。さらに2年後の2015年、東京都江東区清澄白河に、2軒目のワイナリーを開設。現在はこれらのワイナリーの他、ワインショップなど計7つの店舗を東京・大阪で展開。ブドウ栽培からワイン製造、ショップ経営、ワインスクールの開催、料理雑誌でのワインに関する記事の執筆、ワインの栽培・醸造に関するコンサルティングなど、ワインにまつわるその仕事は多岐に及んでいる。

ブドウ栽培農家からワインショップ・オーナーまでが集合

今回の少人数制スクールには8名の参加者が集まった。神戸近郊でヴァンナチュール(自然派ワイン)のブドウ栽培を行っている農家。ワイナリー併設型の食堂を新規に始めたいと思っている飲食店経営者。宿泊施設を準備中で、その中にワイナリーを設置することを検討している事業者。大学を休学して農業を勉強する中で果実酒製造に関心を持った20代前半の若者。神戸市内でワイン販売店を経営するショップオーナーや、ワインを中心に据えたレストランの経営者といった、普段はサービス業の立場でありつつもワインを「つくる」ことに関心を持っている方たちも参加した。それぞれに立場は違いつつ、ワイナリーを始めることに対して非常に真剣な意欲を持つ人たちの会となった。

各自、ワイナリーを実際に始めるとした場合のビジネスプランを作成して発表、その講評を受けるところまでが今回のスクールのゴール。そこに向けて、まずは藤丸さんのレクチャーが行われた。日本の酒造業界におけるワイン製造の現状や、昨今のワイナリーの傾向といった分析から始まり、藤丸さん自身がどのようにしてアーバンワイナリーを始めるに至ったのか。その中での数々の試行錯誤。また物件取得、資金調達、キャッシュフローまで、自らの実体験をもとにきめ細やかで実践的な講義となった。「この講座が終わるときには、免許を取得するために税務署に持っていく申請書類が書けるくらいに、私の知識と経験を皆さんと共有したいと思います」

またレクチャーの最後には、日本においてもワイナリーが全国的に増えている中、新しい価値をいかに創造していかなければいけないかについての話がされた。 「私が始めた4、5年前には国内ワイナリーの数は220件。今は300件に到達しようとしていて、毎年1割くらい増えている。さらにアーバンワイナリーも、すでにそれだけでは新しいとは言えない状況になっています。『そこで何を表現するか』、自分のワイナリーのコンセプト、個性というものを探ってほしいと思います」

休憩を挟んだ後にはフジマル醸造所のワインを飲みながら参加者それぞれ藤丸さんに質問。「ワイン特区について知りたいのですが……」「ワイナリーを設置する上での用途地域的な制限はどうなのでしょうか」「一時的に他のワイナリーから醸造責任者に“借りる”ことはできるのでしょうか」。実現を前提にした極めて具体的な質問が飛び交った。そのまま懇親会へと向かい皆で楽しく食事をしながら会話は続き、また参加者同士すっかり打ち解けて志を同じくする同士、今後につながる絆ができた。

実現への道筋と課題を確認して終了

2日目は午前中から参加者全員が真剣な表情でビジネスプランのブラッシュアップに集中。わからないことがあれば藤丸さんと会話し、またすぐに手を動かす。お昼の時間が来ても、そのまま作業は続けながらの食事。ぎりぎりまで粘り、午後一番から同時に各自発表が行われた。

ひとり5分の持ち時間で発表し、その後藤丸さんによる講評が行われた。それぞれ現時点で考えうるビジョン、ミッション、原料調達、生産と販売の計画、資金繰りから想定収支までを具体的に示し、それによって問題点や今後の課題も明らかになった。またそれらをどうクリアしていけば良いのかについてのアイデアやヒントが与えられ、参加者全員手応えを得た様子だった。

最後に藤丸さんから総評。「ワイナリーをつくるという共通の目標でありながら、今回集まった皆さんひとりひとりが異なる表現の形や強みもあって、でもそれだけに相互に刺激を与え合う良い場となったと思います。今後本当に実現されることを楽しみに思います。また、良ければ皆さん自身が培った知識や経験を、次に実践する方たちに共有していっていただくことで、日本のワイン文化が連綿とつながっていくとすれば本望です。2日間本当にお疲れ様でした」

参加者たちの感想

最後に、「アーバンワイナリーをはじめよう」プログラム終了直後の参加者の皆さんの感想を紹介する。

「受講する前は『本当にできるのかな』『ワインが好きだからやってみたい』と、どこかフワッとしていたしどこから手をつければ良いかわからなかった。しかし現在は、現実的に何をしないといけないのか、今のままだと何が足りないのか、といったところまで自分の中で具体的になりました。『そんなんじゃ無理だよ』ではなく、解決のヒントを示してもらえたので、もちろん超えなくてはいけないハードルは多々あるけれど、逆に言えば、これとこれをクリアすればできるんじゃないかという気がしています」

「農家として、これまでワイン用のブドウの栽培をしてきましたが、ワイナリーをしようというところまでは興味はあるものの具体的なイメージが及んでいませんでした。だから今回は足りない面をたくさん思い知らされた。けれど、自覚でき、またこの先どういう体制を整えていけばいいのかがわかったので収穫は大きい。具体的な実行に向けてひとつひとつ進めていきたい」

「物件をどうするかというのは課題だが、とにかくいろんなことが明快になって、『やれないことはないな』と思えた。また今回東京から神戸まで来て参加したのも良かった。必ずしも東京にこだわらなければいけないわけでなく、神戸でもできるということがわかって視野が広がった。また他の参加者さんのアイデアも参考になって、自身に取り入れられるものがたくさんあった。チャンスが倍になった気持ちです」

「私はワインを主にした飲食店のオーナーとして、もちろんワイナリーをつくれるならチャレンジしたいという気持ちも持ちつつ、しかしそれ以上に今回のセミナーで得た情報や出会った人を通じて、ワインと関連して自分がどこのポジションでやっていきたいのかが再確認できた。神戸という土地からできたブドウ、それを使ってつくられたワイン。そうしたワインを提供してローカルで楽しむという豊かさをこの神戸で実現できたら。今回の経験を元にそこにつなげていきたいです」

参加された皆さんのワイナリーの実現を楽しみにしています!

取材・執筆=安田洋平 撮影=則直建都 取材=2017年7月22・23日