Artisans

Mar 2016
Interview 01

ポテンシャルを持つ高架下(1/2)

僕らが探していたものづくりのための空間。

Magical Furniture 小寺昌樹さん /Cultivate Industry岩永大介さん /TEAMクラプトン 山口晶さん・山角みどりさん・白石雄大さん

神戸の中心地、三宮近くの阪急王子公園〜春日野道駅にまたがって続く高架下空間にものづくりの人々が集まり始めている。家具屋、内装業、アパレルの職人、額装の工房…etc。2016年の春には新たに靴の工房や造園業の会社などもここへ移ってくる予定だ。なぜ彼らは高架下という場所を選ぶのか。

工房兼ショップとして高架下を利用

— オーダー家具の工房兼ショップ「Magical Furniture」の小寺さんは、どうしてここにしようと思ったのですか?

小寺

自分が育ったのは宝塚市なんですけど、独立するにあたって神戸方面を考えていて。芦屋市から神戸市長田区までの六甲山南側で探していたのですが、家具を作るので音が出せたり、ある程度の天井高がないと駄目でした。工房とショップを並列させたかったので、広さも必要でした。 そうなると郊外に拠点を構えがちです。しかし、僕の場合前職のときに大阪の街中で家具をつくっていて、近所で住んでいる人や働いている人が関心を持って話しかけてくれる感じが好きだったんです。ですから街中がいいという考えが最初からありました。 そして僕が求めるような空間を街中で探して行ったら高架下に行き着いたんです。

— 移ってきたのはいつですか? 

小寺

2年前です。それから自分で改装したりショールームの家具を作ったりするのに1年程かかって、お店としてオープンしたのは2014年の3月末です。

生まれ育った町からものづくりをする

— 岩永さんは、バッグブランドの会社「Cultivate Industry」を2007年に立ち上げられ、2015年にこの高架下に移ってこられました。今は工房兼ギャラリーとして活用されています。どうしてここに来ようと?

岩永

自分のブランドを立ち上げる前は東京に5年居て、アパレルメーカーで洋服を買い付けるバイヤーの仕事などをしていました。そして仕事を終えて家に帰ると、自分の作品を制作していました。 30歳で独立してブランドを立ち上げ、そのタイミングで神戸に戻ってきました。本当は会社を始めるときからこの辺りで拠点を持ちたいと思って探していました。ただそのときはいい空間と出会うことができなくて。 天井が高い場所をずっと探していました。でも日本だとそういう空間は少ない。今の空間に出会えて良かったです。

— 東京でアパレルの仕事をしてきて、そのまま東京で開業ということは考えなかったのですか?

岩永

もちろんそれも考えました。けれど、僕らがつくっているのが革製品であることを考えたときに、産地が近いことはとても大事だと判断したのです。日本の革製造のシェアの約7割は兵庫の姫路市とたつの市なんですよね。逆に言えば、今の時代、ものづくり自体はどこに居てもできると思います。 もうひとつは、会社を始めたときから、国内向け以上に海外に向けたオリジナルバッグの卸売というビジネスモデルで考えていたため、「日本人として」自分たちにしかできないことを表現しなければダメだという気持ちが強くありました。 僕らは東京で生まれ育ったわけではない。自分だけの個性やアイデンティティーとは、生まれ育った場所からしか出ないのではないか。そう考えて、生まれた土地からクリエイションをしていこうと考えたのです。

— 具体的に海外とのビジネスはどのようにされているのですか?

岩永

ファッション業界では春夏と秋冬と年2回、大きな展示会がパリやミラノであってそこに世界中からバイヤーさんたちが集まってオーダーをするというのが一般的なのですが、僕らも、その時期に合わせて海外に行き、そこで半年分の注文を取ってくるんです。日本に戻って、数ヶ月かけて商品を作って納品するという取引のスタイルです。 また、そうした海外の展示会には東京などからもバイヤーさんが来ているので、国内の分の注文も海外で取っていることが多いんです。

何のために稼ぐのか?

— TEAMクラプトンは「DIY(Do It Yourself)」の要素を取り入れた空間やイベント設営のデザイン・設計・施工集団で、山口晶さん・山角みどりさん・白石雄大さんの3人組です。皆さんはどうしてここを借りることにしたんですか?

山口

僕らは活動を開始した当初、工具や材料を運ぶために車がないとできないねという話をして駐車場を借りようとしたんですけど、中心市街地だと駐車場代だけで数万円もする。それだったら値段もそんなに変わらなくて、車が置けて、なおかつ作業場としても使用できる高架下はちょうどいいなと思ったんです。それに空間がむちゃくちゃカッコいい。

— TEAMクラプトンはなぜDIYという要素を取り入れることを意識しているのですか?

山口

内装にしても家具の制作にしても、依頼主が、ただお金を払って欲しいものを手に入れるのではなく、ものをつくるという体験を共有できた方がより楽しいと思うからです。材料の手配やデザインなど段取りは全てこちらでしますが、できるだけ依頼主や依頼主家族や友人、そして僕たちの仲間などボランティアの人たちと一緒にものづくりを行う。「ものづくりって楽しいんだな」と実感する人が増えることでその人たちもできることが広がるし、同時に手を動かしてものをつくることで、プロの職人さんの技術のすごさがわかり、その仕事も改めて見直されると思うのです。

— 神戸市の調査によると、若い世代、特に20代後半の労働人口の県外流出が顕著だと言われているのですが、皆さんの場合、たとえば東京や大阪に行って就職しようとは思わなかったですか。

山角

どこでなければ、という考えはあまりないですね。成功したい、高収入を得たいというより、今いる場所でどう他人と関わって一緒に楽しい時間を過ごせるか、今はそうしたことの方に関心があります。たとえば「私にはこんなことできない」と思っている若い女の子と一緒に過ごして、現場を手伝ってもらっているうちに、いつの間にかその人がプロの工具をがんがん使いこなすようになっていたりとか。人が変わっていく瞬間に立ちあえるのは楽しいですね。

— そうなんですね。

山口

たぶん僕らはお金や成功を価値の一番にして働くという世代じゃないんです。祖父の代は「食べるために働いた」時代だった。父の頃は、食べるものはあって、車やテレビなどモノを買いたくて働いた時代。では僕らはと言えば、正直テレビも要らない、便利なところに住んでいれば車も要らない。住むところと食べるものが確保されていたら、後は携帯があれば生きていける。「なぜ稼ぐのか」その答えをずっと探している。それがわからないから、「とりあえず安定志向」だったり「でかい会社に行け」だったり。本当はもっと大切なものがあるはずと思っているけど、それが何なのかがまだ掴みきれなくて、働き方も含めて模索している最中なんです。

白石

人と一緒に何かをするという体験をあれこれしながら、それを探している途中というか。

山口

今の実感としては、お金という以上に、仲間と一緒に何かができていく喜びの方が僕らの中での価値は高いですね。

— 3人はどうやって出会ったのですか?

山口

大阪にあるコミュニティーデザインの事務所でインターンをしていたときに一緒でした。そこからの仲で、今は3人共、元町にある外国人オーナーのシェアハウスで暮らしています。

(後編につづきます)

取材日=2015年12月8日 取材場所=神戸市灘区の「王子公園駅」そばにある高架下区画「TEAMクラプトン」の作業場にて 取材・執筆=安田洋平 写真=藤田 育