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Apr 2016
Interview 01

小さいところから変えていく(1/2)

街を観察したら面白いことっていっぱいあるんです

「旧グッゲンハイム邸」管理人・ミュージシャン 森本アリさん、イラストレーター 山内庸資さん、漫画家 グレアム・ミックニーさん

神戸の中でも山と海が接近し、急な斜面の途中に家が建っていることから、海に向かう素晴らしい眺めを得られる垂水区塩屋。風光明媚であるが故に、明治時代には外国人の豪商などが住んだことでも知られる。一方で、車が入れないような狭い道路が多いために小さな民家が多く、また昔からずっと続く小さな商店街がある。そしてこのところ、クリエイティブ系の仕事をする人たちが塩屋に引っ越すケースが増えている。

古い洋館を開放してレンタルスペースにしている「旧グッゲンハイム邸」の管理人にして音楽家の森本アリさん、つい先ごろ家族3人で塩屋に越してきたイラストレーターの山内庸資さん、塩屋居住歴7年のスコットランド人漫画家グレアム・ミックニーさんに話を伺った。

いつの間にか周りの人も巻き込んでDIY

— 森本さんが管理されている「旧グッゲンハイム邸」のすぐそばにある、こちらの建物からも窓からの海がきれいに見えますね。

森本

旧グッゲンハイム邸は、取り壊される危機に見舞われたときに森本家で購入し、結果的に僕が管理人をすることになったんです。この建物は、それよりも前に、作品の制作や音楽を練習する目的で購入して改装しました。

最初はほぼ一人で修理しました。と言いながら、近くにいた友人にも手伝ってくれました。ロフトとつながる階段は、ちょうどドイツから来ていた大工さんが居たので、宿を提供する代わりにつくってもらいました。その後、旧グッゲンハイム邸の管理人をしなくてはいけなくなったので、この建物を貸すことにしました。グレアムとはそのときからもう7年、このアパートの住人です。グレアムの知り合いで、ここに住んだオーストラリア人の方にも天井の解体など手伝ってもらいました。使いながら直していきました。

— いろんな人たちがいつの間にかどんどん一緒に作業していますね(笑)森本さん自身はDIYは昔から得意なのですか?

森本

大学はベルギーのアートスクールに通っていたのですが、そこではいろんな友達がいて、建築関係の人も多かったですね。そういう人たちと一緒にいて手を動かしているうちに技術や道具の使い方も自然に覚えました。また、うちの実家も塩屋でこのすぐ近所ですが、築100年の民家の移築です。それを手直ししながら使っているから、割と自分でやるのが昔から普通なんですよ。

— 旧グッゲンハイム邸も自ら修繕された?

森本

築105年の洋館はプロの人に頼んで、僕は本館の横にあった長屋を知り合いとコツコツ直しました。直す前の状態で知人に声を掛けたら10部屋以上あったそれらの部屋の借り手があっという間に見つかり、そして借り手の人たちと一緒にDIYで一個一個の部屋をつくり上げていきました。

街をまず「観察すること」「面白がること」

— 山内さんの出身はどちらですか?

山内

生まれは京都なんですけど、4〜5歳で神戸市西区に引っ越してきて、大学まではそこにいました。結婚してから最近まで新長田に住んでいました。今、37歳です。

— 元々は油絵の画家として活動していて、現在はイラストレーターとしてお仕事をされていますね。心境の変化があったのですか。

山内

10年ぐらい前にアメリカに旅行したことが自分の中では大きな転機でした。エリザベス・ペイトンという画家の展覧会が見たくて、ニューヨークとミネアポリスに行ったのです。 その時に絵のことをもう一度見つめなおして。もっと自由に、普通の自分の生活の延長線上で、軽やかに描いてもいいのではないかと思ったのです。身近で、親しみがあって、けれども少し違う角度から見て絵にして、回りの人とコミュニケーションを取っていくのが楽しいのではないかと。

— 展覧会を拝見していると、新開地で行った「NEW OPEN AREA」展(2014年・神戸)、「Nowhere City」展(2013年・滋賀)、「MARK IN THE CITY」ワークショップ(2016年・徳島) のように、街を題材にしていらっしゃることが多いですね。

山内

そうですね。ミネアポリスに行ったときに、絵のあり方と合わせて、街のあり方についてもすごく考えたのです。美術館、公園、緑、ひとつひとつに対しても、そこに住む人たちとのきちんとした「関わり方」があって、だから街も人も活き活きとしている。日本と何が違うのか。

どうして日本では一部の人しか美術に関わりがないのか。街の緑化もどこか取ってつけたような、そこに住む人と馴染んで見えないことが多いのはなぜなのか。こんなこと言ったら変に聞こえるかもしれませんが、僕は絵が専門ですけど、アメリカから帰ってきて以来、「絵でどういう風に街を心地良くしていくか」っていうことをよく考えるようになりました。日常を観察し、描くこと。自分のしている行為がどういう風に街が面白くなっていくことと関係するのかという視点に変わってきた。

— 塩屋でも絵地図を使った「地図プロジェクト」という試みをされていますね。

山内

最初に行ったのは、塩屋の街で僕が拾ったものを絵地図にしてみるという取り組みでした。去年は、ワークショップにして、街のみなさんにも同じことをしてもらいました。 当たり前と思っている、小さなものに対する認識がちょっと変わるというのは実は大きくて、そこから街の感じ方も面白く変わっていくと思っています。街を面白がることで、その街と人のあり方は少し変わっていくのではないか。その媒介が僕の場合は絵なんです。

僕の人生で一番長く住んでいる場所

— グレアム・ミックニーさんは神戸をテーマにしたコミックの連載「グレアムさんの神戸日記」(※1)を描いています。もう塩屋在住7年になられるとのことですが、どうして塩屋に?

グレアム

その前は中国地方に2年住んでいたのですが、神戸に縁がありまして。

森本

彼が神戸の友達に会いに来ることになったときに、旧グッゲンハイム邸の長屋に3か月なら住めるよという話をしたんです。

グレアム

住んでみると居心地が良くて。

森本

それで3か月経ったときに、今度は僕が使うはずだったこちらの建物にグレ(グレアムさんの愛称)住む? と。

グレアム

結果的に、僕の人生で一番長く住んでいる場所になりました。

— それまではどんなところに住んできたのですか?

グレアム

生まれたのは南アフリカ。それからいろんなところに。大学はスコットランドで映画を学んだ。ZINE(※2)などもつくっていました。アメリカやギリシャに住んでいたこともあります。アジアは日本だけです。東京や大阪も行ったけど、もっと田舎の方が面白いと思って、それから塩屋に。

— 塩屋の好きなところはたとえばどんなところですか?

グレアム

お気に入りは全部。いっぱい面白い所があります。まずここ(今居る部屋の腰掛けている部分を差す)。正確に言うと隣りの部屋のこの場所ということになりますが、海の見える出窓のところで朝ご飯を食べたり、読書したり。満月の時はここから月光が海面に反射するのが見えてとても綺麗なんです。

それから車がほとんど通らないところ。車の音あまり好きじゃないから。それもここに住みたいと思った理由のひとつ。Googleストリートビューの車も入って来られないので勝手に撮影されないところも良いです(笑)(※3)

(※1)株式会社マガジンハウスが発行するwebマガジン「colocal」で連載中。
(※2)自作の文章や絵、写真などをコピー機やプリンターで少量印刷し、ホチキスなどでとじた小冊子。手軽に自分を表現できる手段として1960年代に米国で生まれ、90年代に西海岸を中心に流行。
(※3)Google社では、「Googleストリートビュー」という、オンラインマップ「Googleマップ」に関するサービスを行っている。オンラインマップ上のある地点をクリックすると、世界中どこでもその地点を撮影した画像が見られるというもので、その画像を撮影するための専用車が各地を巡回している。だが、車の入っていけない区域についてはその画像の収集が難しいとされている。