Activists

Jun 2018
Column

神戸の環境的長所を生かした保育園が増えてほしい

子どもの環境のことを考えて移住した親の目線から

移住検討者の目線から神戸を他の都市と天秤にかけた場合、優位性と映るひとつは「都市でありながら自然が近い」ことではないだろうか。事実、周りを見てもその部分を魅力に感じて東京など大都市から越してくる人は近年増えている。

かく言う私もそのひとりだ。いつもはKOBE live+ workのレポート記事を客観的な立場から書かせてもらっているが、今回だけ実際に子育て中の親として、そして東京から移住してきた当事者として、神戸で子どもを育てながら感じることを率直に書いて欲しいと頼まれたので、ここに綴らせていただいた。個人の主観によるものなので、あくまでひとつのサンプルとしてご参照されたい。なお私は自営業者で、編集制作の会社を経営しており、妻は専業主婦。子どもは上が6歳下が3歳。神戸に移住して3年が経った。私の郷里は愛知なので、神戸移住はIターンということになる。

私の場合も含め、移住してくる層の多くは小さい子ども、特に乳児・未就学児を持つ世帯であろう。とりわけIターンの場合、見知らぬ土地へわざわざ移住するのは子どもを育てる環境に対するこだわりが関係している場合が少なくない。子どもたちには「街の中に住んでいるけど、土を踏んで自然の中でのびのび遊ばせられる」環境を切望する。ただ、同時に親である私はそれまで同様、都市だからこそ成立してきた仕事を引き続き行えるとありがたいと思っている。都合の良い話だが、事実、神戸を選んだのはこの点において正解だった。神戸の幼稚園や保育園は、街中にあっても園外保育でよく自然の中に出かけているようで(特に山。すぐそばに六甲山があるおかげ)、そうした話を妻から聞くにつけ、思い切って引っ越して良かったと満足感を覚える。

その一方で、徒歩でも行ける距離にこれだけ優れた自然環境の資源があるだけに「もう一段深く自然の中で子どもを遊ばせられる」ことを追求した保育園や幼稚園がもっと登場してもいいんじゃないだろうかということも思う。そんな中、神奈川県逗子市で自然派保育園を運営する特定非営利活動法人「ごかんたいそう」代表理事・全田和也(まった・かずや)さんによる勉強会が神戸で開催されると聞き、見学させてもらった。その保育園では、山の森の中にある600坪ほどの食育菜園に囲まれて建つ園舎に3~5歳児30人が通っている「ごかんのもり」と、逗子海岸の近くの古民家を使った園舎で1~2歳の乳児18人が過ごす「ごかんのいえ」からなる。文字通り、五感を使って自然の中で思いっきり遊ぶ・学ぶ保育が特徴だ。

勉強会当日は4名のうち3名が、未就学児を持つ現役ママと、「どんな環境・体験の場を子どもに与えたいか」に対する意識が当事者的な動機と直結している参加者の顔ぶれとなった。

子どもの原風景をどうつくるか

講師の全田さんも保育園を始めたのは自身の子育てがきっかけだったという。息子の発育が少し遅いことに悩む中、たまたま神奈川県逗子市の海岸に遊びに行き、そこで息子がそれまでとまったく違って自由に、目が輝かせて遊ぶさまに驚いた。また自分たち親も都心で子どもを連れているときのような、常に緊張で張り詰めた感覚ではなくなっていた。「その体験が原点となって僕ら家族は逗子に引っ越し子どもも親である僕らも落ち着いていったのですが、いつしか自然の中で子どもが五感を働かせて、自ら育っていく、そんな保育園をつくりたいという気持ちが強くなって……。それが自分のライフワークなんじゃないかと思うようになっていきました」

全田さんが保育園を運営する中で大事にしていることは、その事業でもっとも大切にしたい信条やポリシー、ありたい姿について、簡潔な言葉で表し周りと共有することだという。「自分たち次第で子どもの“原風景”が変わる。これはそういう仕事だ」「叶えたい未来とは何か。どういう世の中にしたいのか」。また仕事は自分の人生の作品表現と捉え、その“作品性を上げること”に邁進し続けること。そうすれば、スタッフ、サポーター、そして親……、自然とそこに引きつけられる人たちとの共感の話が広がると信じている。

自然の中で自ら育つ子どもたち

あとは何よりも、「自然が園庭」という言葉が印象的だった。自然の中には、子どもたちの好奇心が芽生えるポイントがものすごく多いという。3歳児から5歳児が通う「ごかんのもり」の園舎はなかなかの山の中、子どもたちを通わせる親自身も園まで連れていくのに毎日森林浴。しかも結構な高傾斜を親子して登っていく。また保育方針として、決して安全を軽視しているわけではないけれど、「安全“だけ”第一になってはいけない」。自然の中には危険もある。けれどもそういう中でなんでも大人が先回りするのでなく、覚悟を持って見守り、子ども自身の育つ力と向き合うことを追求している。

多様な保育園が生まれる未来へ

勉強会のあと、参加者たちは、それぞれ自分が作りたい/欲しい園の姿について話し合い、発表を行った。

「毎日何かしら子どもたちが手を動かしてものをつくっている場をつくりたい。ものづくりが人づくりと言えるような保育園」 「自分だったら、食育・味覚を豊かにすることをテーマにした保育園がつくってみたいと思う」 「神戸の性格を最大限に生かし、街に近接した、『歩いていける森』での保育が積極的に行われる園を実現させたい」 多様性があり、また特徴をしっかり持った保育園に対する願望が強く感じられた。

全田さんの勉強会を取材し、参加者の想いを聞き、自然を生かした保育園を始めとした多様な保育園が生まれそうな期待を抱いた。何より、山と海に囲まれているという、自然の条件が良い点をより生かした保育園が増えてくれたら嬉しい。今後移住してこられるファミリーにとってもそうであろう。今後に期待したい。

取材・執筆=安田洋平 撮影=則直建都(※6点目の組み写真は異なる。特定非営利活動法人ごかんたいそうより画像提供) 取材日=2018年1月27日・28日